親族間売買 不動産の「時価」の調べ方

親から子供へ土地や建物を売ることを親族間の不動産売買と言います。
社長が持っている土地や建物をその社長の会社に売ることを同族間の不動産売買と言います。

親族間、同族間の不動産売買で最も気を付ける点は、「不動産を取引する金額をいくらにするか」です。

金額が安いと贈与税がかかる

親族間、同族間で不動産売買をする場合は『時価』で行う必要があります。
もし、時価よりも著しく低い金額で不動産を売買した場合は、その差額に『贈与税』が課税されます。

贈与税は課税される金額で税率が変わりますが、最高で55%にもなります。

不動産の時価を調べる方法

不動産の時価とは”その時における価額”です。
この時価を調べる方法は大きく分けて次の3つがあります

①不動産会社の無料査定

不動産会社は不動産の売買を目的としているので、査定はそのサービスの一つです。不動産会社の査定方法は、会社によって変わり、査定額はやや高くなる傾向にあります。そのため、複数の会社に査定してもらい、その中から判断する必要があります。

②相続税路線価

相続税路線価は相続税や贈与税を計算するために国税庁が公表している路線価です。相続税路線価から計算して求めた価格を0.8で割り戻した価格が『時価』に近いと言われています。この方法では、土地の金額は計算できますが、建物の金額を計算することは出来ません。

https://ohno-kantei.co.jp/2018/08/20/routeprice/

③不動産鑑定士による評価

不動産鑑定士が作った不動産鑑定評価書は資料として税務署に提出することができます。ただし、10~40万円程度の費用がかかります。

取引価格を設定する流れ

実際に取引価格を設定するには、
まず、②相続税路線価を使って土地の時価を見積もることをオススメします。

路線価による計算を行う場合、土地の奥行による補正を行う「奥行価格補正率」や角地の場合の「側方路線影響加算率」といった各種補正を行う必要があることに注意してください。

相続税路線価は「時価」に近い「公示価格」の8割を目安に設定しているので、
求めた価格を0.8で割り戻した金額が、取引価格の目安になります。
相続税路線価はそもそも国税庁が設定しているので、その路線価によって求められた価格には説得力があります。

また、余裕があるならば、①不動産会社に査定してもらうといいでしょう。
これらの方法で求められた土地の価格を参考に取引価格を設定します。

取引価格を低くしたい場合

親族間売買や同族間売買でも、取引価格はなるべく低く設定したいと考えます。
一つ目安になる判例があります。

東京地判平成19年8月23日(行ウ)第562号

  • 路線価から求めた価格を(0.8で割りも出さないまま)親族間売買の取引価格は「著しく低い金額」であり贈与税が発生すると税務署が主張した事例
  • 裁判所は、路線価から求めた価格は「著しく低い金額」ではないと判断

つまり、時価の8割程度である路線価による価格は、親族間売買の取引価格としてOKであるという判例です。

結果として、路線価による価格は取引価格として認められましたが、「時価」の8割を取引価格に設定することは、税務署から指摘される可能性がある「イエローゾーン」であると言えます。

裁判まで発展すれば、裁判費用という余計な出費も出てしまうので、指摘されないために余裕を持った取引価格を設定する必要があります。

不動産鑑定評価が必要な場合は?

税務署から指摘されない一番確実な方法は③不動産鑑定士による評価です。
③は資料として提出できるので、その効果は一番高く確実な方法であると言えます。

③の方法は理想的ですが、費用が発生するという点を考慮しなければなりません。そこで、不動産鑑定士の評価を行った方が効果(メリット)が大きい場合を挙げてみます。

取引の金額が大きいもの

贈与税は課税対象が大きくなるほど税率が高くなります。もし追徴課税されたら、その金額は非常に大きな額になってしまいます。そこで最も確実な方法である不動産鑑定士による評価をお勧めします。また、不動産鑑定士の評価額は不動産会社の査定よりも低い金額になる可能性があるため、取引金額を抑えることができます。

土地の形が特殊だったり、崖地を含むもの

土地の形が特殊(不整形)だったり、崖地を含んだりすると、その土地の利用方法が限定されて価値が著しく低下する場合があります。

②路線価から価格を求める方法では、補正率として価格に反映されますが、補正の方法は一定であるため、土地の持つ特殊性を十分に加味することができない事例も多々あります。

不動産鑑定士による評価では、これらの特殊性を個別に反映させるため、評価額が低くなり取引価格を抑えることができます。

親族間や同族間の不動産売買は、相続や事業継承といった問題のために今後増える可能性があります。追徴されないように取引価格は慎重に決めなければなりません。